周りが将来の夢だの卒業後の進路だの確定し始めている裏腹に夢も目標も何も見つからず、白紙の進路希望書を見つめていた。怪我で部活にも参加できずに、何を目標に頑張ればいいのかも分からずにただ迷走する毎日が続いていた。三者面談で親にも先生にも、そろそろ決めないとまずいぞ。と念押しされた。高校の3年間で人生のひとつの決断をしろという方が酷だと思う。何も考えずにただ1人になりたくて家から飛び出してがむしゃらに自転車を走らせた。大粒の雨が頬を伝わるのにも気が付かなかった。バックから折りたたみ傘を取りだし何をすることも無く、毎朝クリームパンと牛乳を買うコンビニに寄り、ホットココアを買った。大きなため息をついてココアを口へと運ぶ。帰っても看護師の母は夜勤でいないし、単身赴任中の父も次帰ってくるのは2週間後。つまり今日は1人でめしをくい、風呂に入り、布団に入って眠るだけ。次に目を冷めた時には窓から朝日が入り込みまた憂鬱な朝が始まる。そんなことを考えていると、傘もささずベンチに座っている見覚えがある制服を着た女の子が座っていた。何を考えているのか一点を見つめながら黙っている。放っておくことも出来ず自分が差している傘の半分を彼女に差し出し声をかけた。
大丈夫??君同じ学校だよね。あったことはない気がするけど何年生?こんなところで何してるの。
初対面にしては質問攻めすぎるし、声のかけ方もナンパみたいだと少し反省する。
ゆっくりと顔を上げた彼女は薄暗く雨が降っていてもわかるくらい赤く目が腫れていて大きな雫がポロリと光っていた。慌てるように目を擦ると大丈夫。一言そういい走っていった。
その後ろ姿を追いかけることも無く、ただ見つめることしかできなかった。
彼女が座っていたベンチに残された、小さなクマのストラップと、折りたたまれたA4位の紙を拾い上げた。
小さなクマはどうやら手作りのようでよく見るとさくらと刺繍されている。
さくら、、、
今ならまだ走れば間に合うかとも思ったが、同じ制服を着ていたからきっとまた会えるだろう、その時に渡そうとバックに放り込み、止めていた自転車に股がり行先も決めずにただ走り出した。
思えばこの出会いが、良くも悪くも人生を変える出会いだったのかもしれない。