儚い桜に花びらを

それから1ヶ月。
絶対に忘れたくなかった結城のことも全て忘れてしまい、思い出すことは無くなった。
それでも結城は毎日毎日伝え続けてくれた。
『頑張れ、頑張れ。』
その声も言葉も全てが懐かしくて、誰かわからなくても力が湧いてくる。
『出会えてよかったよ、さくら。お前をすきになれて良かった。』
何度も伝えてくれる結城の声が私の記憶を蘇らせた。
『結城、ありがとう。私も幸せだった。
好きになれて良かった。私が忘れてしまう思い出も結城だけは覚えていて欲しい。無責任でごめんね。』
急に記憶が戻った私に驚いた顔をして、
私の名前を呼びながら泣きついた。
それから2日、私はそれっきり記憶を
取り戻すことなく息を引き取った。
『さくらが忘れてしまった思い出、俺が全部覚えとくから、大丈夫だ。待ってろよ、何十年かかってもお前の元に飛んでくから。』
意識が朦朧とするさくらに向かってそう伝えた。もう涙は流さない。覚悟を決めたから。
生まれ変わってもさくらと出会ってさくらに恋して、さくらの花びらになる。


安らかに眠るさくらを向井と咲と俺と俺の母親で見送った。
みんな声を出して泣いていた。
俺はもう涙も出なかった。泣きすぎたくらい沢山泣いてもう涙も乾ききってしまったのだろう。
すると咲がポケットから4つ折りに折りたたまれた紙を差し出し、さくらの想いちゃんと受け取って。と渡された。
なにかも分からず開くと不器用な字で綴られたさくらの字が並べられている。

結城太一さまへ
この手紙を読む頃私は結城のことも全て忘れ、あなたを泣かせてしまっているのでしょう。
結城と出会って私の人生は180度変わりました。
知らなかった感情も知らなかった経験も全て結城から教えてもらいました。
あなたの言葉に何度も助けられ励まされ、生きる希望をもらいました。
優しく包み込んでくれる大きな体も強く握られた大きな手、目が潰れるほどの笑顔を近くで見られるあなたの隣は私だけの特等席でいつの日か誰にも渡したくない存在となりました。
ホントならあなたを綺麗に突き放してあげなきゃいけなかったのかもしれない。
でもそんなこと出来なかった。だってあなたに恋してしまっていたから。
誰かを好きになることもこんなに愛されることも全てが初めてでした。
もっと早く出会っていたら。健康なからだで普通の高校生がする恋愛をできていたらと思ったことは何度もあります。
神様はこんなに不公平なのかとどこにぶつけていいか分からない怒りを抱いたことも。
でもこれは残された私の人生に贈られる最高のプレゼントでした。
あなたに出会ってからの今日までの毎日は私にとって眩しいくらいの太陽のような日々でした。
結城を好きになり、あなただけを残していくけど私はどこにいてもあなたを思っています。
あなたの幸せが私の幸せです。
私の最後の願いは一つだけ結城太一のこれからの人生が明るい未来でありますように。
ただ幸せでいてくれればそれでいい。それだけを願って私は結城とサヨナラする。
出会ってくれてありがとう。私のことは出来るだけ早く忘れて必ず幸せになってね。
最後に結城と二人で見上げた満月の月は私の人生で1番綺麗でした。

橘さくら

さくらの想いが詰まった手紙を読んで声を殺して泣いた。