儚い桜に花びらを

それから2ヶ月。
あの日から1度も退院することはなく自分のことも結城のことも少しずつ忘れてしまうことが増えていった。
結城は毎日欠かさず会いに来てくれるから寂しいことはない、結城がいつも学校へ行けなくなった私に変わってたわいのない話を沢山聞かせてくれて、少しでも私を楽しませようと沢山話題になる話を持ってきてくれるから。
『3月の桜、結城と一緒に見たかったな。』
窓の外から見える真っ白な雪を見ながら心の声が漏れてしまった私の声を拾うように
『見れるよ。一緒に、来年の桜一緒に見よう』
自信満々にじっと見つめてそういう結城の言葉が嬉しくて、だけど叶わないことを察し、堪えてきた涙がポロリとこぼれ落ちた。その涙を見せないように結城に背を向け止まらない涙を何度も拭った。
何も言わずに後ろから抱きしめられ、かける言葉も見つからずわたしは胸元に置かれた結城の手を強く握りしめた。病室から見える大きなクリスマスツリーを2人で見つめた。
強く抱きしめられる結城の腕の中は暖かくて、これまで感じたことがないくらい幸せだった。
ハッピーメリークリスマス。
そう言いながらポケットから小さな箱を取りだした。
私の驚いた顔を見てびっくりした?とくしゃくしゃの笑顔で言ってくる。
びっくりだよ、私何も用意できてないよ?
小さな小箱を受け取りそう言うと、これは俺の気持ちだから受け取ってと言ってくれたのでありがとう、ほんとに嬉しいと答えた。
私の手から小箱を受け取りドラマや映画で見るプロポーズのワンシーンのように開けてみせるとそこにはシンプルだけどひとつのダイヤがキラッと光った指輪が入っていた。
私の左手の薬指に指輪を通すと
『さくら、俺のこと好き?』子犬のように見つめる君の頬に手を置き『だいす…』躊躇なく口にする大好きを遮るように結城は私の口にキスをする。
クリスマスプレゼント貰った。と嬉しそうな顔をする結城に顔を近づけ『まだ言い終わってませーん。』と言うと『じゃあもう1回言って?』
拒む私と大好きを言って欲しい結城の掛け合いを何度もしたあと『結城、好きだよ。大好き』と言ったあともうひとつ結城の唇にキスをする。
驚いたような、嬉しそうな、満足そうな顔を見せてくれた。
初めてだった。好きな人と過ごすクリスマスが、結城と過ごす毎日がこんなに幸せだと思えたことも。

結城が私を想う気持ち以上に私は結城が愛おしくて、手放したくないという気持ちでいること。
結城は分かってくれていたのかな。
この気持ちをいつまで覚えていられるかな。