私は中卒をした。金銭面と、独学で学びたいという願望だけの力で。本当であったら、もうとっくに社会人である。
相当な無理だという事は承知だった。ただ、田舎者で、貧乏だったうちにとって、それが最善。だが、今現在で「貧乏」という括りは覆される。

「あぁっ」

膝から崩れ落ちるお婆さん。二月中旬、一番氷が張っている時期。

「大丈夫ですか」

そう言いながら私はお婆さんを抱く。

「ありがとねぇ…」

グキッ

「あ゛」
「ん?」
「だいじょぶです……ははは……。」

あ…、捻った。完全完璧ヤッた。オワッタ……。
ヒールッッッ…、一生恨んでやる…。

「大丈夫ですか?」

誰。もう。痛いからさ。話し掛けないで頂けますでしょうか。

「捻ったんでしょう。」
「大丈夫です。」
「いや、肩をか……」
「辞めて下さい。セクハラで訴えますよ。」
「え。それはマジで困るヤツ…」
「でしょう。放っといてください。」
「湿布……」
「触んないで下さい。それでは」

えー……。そして?あのー。花瀬 来駕(はなせ らいが)とやらは何処に…?
いや、絶対に嫌ですけどね?この人が何?花瀬……どーのこーのだったら、嫌ですけどね?
この人と婚約するとか、王子だとしても___、
あ、紹介遅れました。私は俳花 零下(はいばな れいか)です、今日を以てこの国の王と婚約します。

「あ、あのー……」

少女漫画的展開現るとか、全然期待してませんけど。てか、誰やねん、アンタ。さっきから何?っていい返したりますわ

「はい?」
「俳花さん…でしょうか……?」

ぇ……?

「っ、個人情報ばら撒き過ぎでは!?」
「へ?」
「唐突に来て、俳花さんでしょぉかぁなんて言ったら、若し私が俳花零下じゃなかった時、保証はッ!?」
「あ…、良かったです」

この男、狂ってやがる……。

「椪花、零下さん。今日から私の奥さんでしょう?」
「嫌ですけど。」
「…へ?」

この女ッッ、狂ってやがる!!!!
なんだ此奴……。俺は、令嬢の息子だ。まぁ、冷静を装って。

「何故でしょう」
「周りにこんなキャーキャー歓声があがる中で、婚約なんかできませんけど。」
「…。」

此奴、マジで……。いや、平静をッッ!

「婚約なんてしてしまえば、この歓声もきっと消えますよ。」
「ウザいです、近くよらないで下さい。」
「・・・」

此奴の前で“平静”だの“冷静”だの“平然”だの。
そのような詞は通用しない事が分かった。

「此方からお断りだ。俺の前から今直ぐ消えろ。」
「ごきげんよう。」