「へぇ、駿さんは空師なんだ。俺、前に、すっげー断崖絶壁みたいな場所にある木の上で動けなくなった猫を助けてるニュース見たことあります。あれ、メチャ凄かった。落ちたら一発アウトですよ。マジ、あれは凄かった」

「そんなニュースやってたの?」

「うん、俺、たまたま観てたんだ。そん時、空師っていう仕事があるの知った」

「それ、たぶん俺だ。4年前くらいだろ」

「そうなんですか!あれ、駿さんだったんですか!」

「ああ、俺だ。最初は親父が登る予定だったんだが、別の現場が長引いて俺が代わりに登った」

「スゲェな、本人がここにいた。怖くないんですか?」

「そりゃあ、あんな場所怖いに決まってる。怖いけど、いつの間にかそれが緊張感に変わる」

「あっ!あん時のインタビュー思い出した。命を救えて良かったですって言ってた。たったそれだけ。しかも無表情」

「そんなこと言ってたかな」

「そっか、そっか、あれ、駿さんだったんだ…」

「よく覚えてるな」

「俺、観てて思ったんですよね。この人、自分の仕事にプライド持ってんだろうなぁ、根っからの職人気質なんだろうなって」

「そんな褒めんなよ」

「いや、付き合いにくそうだなって」

「はぁ?」

「嘘です」

「おいトモキ、おちょくってんのか?」

返事がないのでバックミラー越しに彼を見ると、物思いにふける様子で窓の外を眺めていた。

「俺、ここに来て良かった。また来ていいかな」

「もちろん」
「ああ」


俺と美咲はトモキを改札口で見送った。
彼はきっと、何か大きな悩みを抱えてここに来たんだろう。ただ同級生に会いに来た訳ではないことくらい雰囲気でなんとなくわかる。全て断ち切りたいとここに来た美咲が、自分の場所を教える筈がない。

それだけ、美咲に会いたかったのか。
俺の知らない美咲をトモキは知っている。
俺は彼に嫉妬した。