「そんなんじゃ死なないよ。智紀、死ぬ気だよね。もっと強く締めなきゃ。私も一緒に智紀の望む世界にいってあげるから」

彼の眼から大粒の涙がこぼれ落ちる。

首にかかった手から完全に力が抜け、ふらふらと立ち上がった。しばらく空を見上げていたかと思うと、私に背を向け力無く歩き始めた。

「智紀!」

私は駆け寄り、彼の腕を掴んだ。

「何があったの?私には話せない?」

彼の顔を見据える私に、もう一度《ごめんな》と言った。きっとこの手を離したら、彼は違う世界に行ってしまう。そう思った私は握った手に力を込めた。今の彼は、聴覚も大切な夢も、何もかも失ってしまったあの時の私のようだったから……

「智紀、部屋に入ろう。美味しい紅茶があるから、一緒に飲もう」

半強引に彼を部屋に引き入れた。
ソファーに座らせ、カモミールティーを淹れると、彼の手にそっとカップを持たせた。

ゆっくり口をつけ何か言った。何を言ったのかわからなかったので、タブレットを彼の前に置いた。