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剪定が終わり地上へ降りると、彼女の横に座っていた男性がこちらへ近づいてきた。
名刺を手渡されたので見た瞬間、親父と顔を合わせた。

  株式会社 高ノ宮設計
  代表取締役 高ノ宮 将平
     SHOHEI TAKANONIYA

やはり彼女は社長令嬢だったということだ。

高ノ宮氏に別荘に招き入れられ、寿司を頼んでいるので食べたいけと言われた。今日はこの別荘の剪定しか仕事は入っていなかったので、親父と二人甘えることにした。

彼女がお茶を出してくれた。いい香りだ。インドの紅茶だと教えてくれた。さすが飲み物も違うなと感心してしまった。

高ノ宮氏は、俺たちの仕事にかなり興味があるようで、寿司を食べながら親父と意気投合し、大いに盛り上がっている。二人の会話には入っていけない。

俺は部屋を見渡した。壁面に沿って備え付けられた本棚には、色々なジャンルの本がびっしりと収められている。ソファーに腰掛け本を読む彼女の姿を想像した。音のない世界にいる彼女にとって、これらの本は必要不可欠なものなのかもしれない。


そんなことを考えていると、彼女が俺にスマホ画面を見せた。

『クスノキがとっても気持ちよさそうです。剪定してくれてありがとうございました。屋根の窓にかかっていた枝も切ってくれて、綺麗な星が見えそうです』

そうだ。木の上にいる時、屋根に窓がついているんだな、あそこから夜空を眺めたら綺麗だろうなと思ったのだった。

『ちゃんと見えると思うよ。俺も見てみたいな』

『さすがに星は出ていませんけど、空を見てみます?』

『いいのか?』

彼女は微笑むと、スマホに何か打ち込み、高ノ宮氏にその画面を見せていた。彼は笑顔で頷いている。

『駿さん、上に行きましょう』