★★★

〜耳が聞こえなくなっていく恐怖〜

俺は言葉に詰まった。生まれつきだとばかり思い込んでいた自分自身に呆れた。
音がなくなっていく。それは暗闇に向かって進んでいっているようなものなのではないか。彼女は今も恐怖と戦っているのかもしれない。
俺は彼女を抱きしめたい衝動に駆られた。

そして、〜土曜日が待ち遠しい〜

彼女からの送信に胸が躍る。
土曜日といわず、すぐにでも会いたい。欲を言うなら、駿と呼んで欲しい、そう思った。

なんなんだ、この気持ちは……

まさか、彼女のことを好きになったのか?
今日会ったばかりだぞ。いやいやいやいや、ん?、は?、え?
もしかして、これを一目惚れというのか?

〜駿さん〜

なんだこの心地よさは!
しかも、美咲でいいと。

(美咲)打ち込んだ後に恥ずかしくなり、すぐさま(さん)をつけた。

俺は29だぞ。今までこんな気持ちになったことなど一度もない。
失礼しますとやり取りの終了を告げられた時は、なんとも言えない感情が込み上げてきた。

ん?ちょっと待てよ。確か彼女は高ノ宮と言っていたな。もしかしたら高ノ宮設計と関係があるのか?高ノ宮設計は日本で五本の指入る大手設計事務所だ。社長の別荘があると聞いた事があるし、あの気品ある仕草、まさか、社長令嬢か?

もしそうだとしたら、随分と高嶺の花だぞ。
だが、お嬢だろうがなんだろうが、俺の込み上げる感情は抑えられそうにない。

土曜日よ、早く来い。