君が生きた証を残すから


𓍼ˢ❀

 懐かしい夢を見た。
 それは昔、実際に自分の身に起きた出来事。

 小学生の時。地元から車で三時間、観光を兼ねて祖父母の家に遊びに来ていた。
 僕にとっては初めての外泊で、その時の記憶は今でも鮮明に思い出せる。
 その日、初めて淡譚通りに足を踏み入れたくせに「何だか懐かしい気がする」などと生意気なことを思っていた。
 それを両親に話すと、この町の雰囲気がそんな気分にさせてくれるのだと言われ、僕は一瞬でここが好きになった。

 ホワイトタウンを巡り、祖父母の家に着いたのは夕方。沈みかけの夕日が道を照らし、オレンジ色に染まる町を瞳に映すとしばらく足が動かなくなっていた。
 この景色の中にまだいたい。そう思った僕は、店の前から見える景色をぼんやり眺めていた。
 先に目をやると、どこまでも続く大きな山があり、そこから下っている道には何軒もの家が立ち並んでいた。そのまま視線を西へ向けると、夕日を取り込んで色づくホワイトタウンがある。
 騒がしい都会にいるだけでは味わうことが出来ない、田舎ならではの空気に呑まれ、心地良い風に目を閉じた。

 そんな静かな時間の中に、遠くから聞こえてきた足音が入り込んできた。
 その音は僕の後ろで止まり、乱れた息がうるさいくらいに響く。
 方向的に山の方から続くあの坂を下ってきたのだろう。背中から聞こえた足音や息遣いから大人ではないことは分かる。
 何かあったのかと、僕はそっと後ろを振り向いた。

 そこにいたのは、自分と同い年くらいの女の子。
 荒い呼吸と一緒に肩が上下し、手を強く握り締めている。
 どうしたの?そう訊ねる前に彼女は口を開いた。

 『私は、あなたのことが憎い』

 その時、彼女とは初めて会ったと思う。
 なのに相手は僕のことを知っていたのか、迷わずその言葉を口した。
 それから何かをするわけでもなく、彼女は走り去ってしまった。
 その姿と一緒に目の前に映る景色が白く霞み、遠くなっていく。

 また、何もできなかった。