「ねぇ、あれやろうよ」
ホワイトタウンの入り口まで帰る途中にフードコートがあってそこで見つけた、たこ焼き屋。表示されていたメニューの中に一際目立っているものがあった。
「ロシアンたこ焼き……」
中身はシンプルなたこの他にチーズ、餅、カスタード、いちごジャム、わさび。外れ付きか。実質たこ焼きはひとつであとはただの焼きのなかに入っているスイーツ。
「普通のじゃなくて?」
「私わさび入りのたこ焼きってちょっと興味あって」
「なら全部割って食べれば分かるか」
「だめだよ!こういうのはスリルを楽しまなきゃ」
「えぇ……」
真面目にロシアンルーレットを楽しもうとしている。しかも連休キャンペーンでわさび二倍……最悪だ。
「辛いのだめなの?」
「こういうのって普通のより辛いから嫌だ。水月さんは甘いのも辛いのもいける人?」
「うん、辛いの無理だよ」
「え」
「でも一回やってみたかったんだよね。ほら、こういうのって一人でやるものでもないしさ」
そう言われると断れない。
興味津々に見つめている純粋な瞳を裏切ることもできず、普段こんなもの頼まないから最初で最後の挑戦をしてみてもいいかもしれないと思考を切り替え、覚悟を決めた。
「分かった。じゃあやろう」
考えただけで唾液が出てくるけど、他でもない彼女の頼みだ。
カウンターに向かい、「ロシアンたこ焼き一つください」と一言。注文後、出来たてをくれたの紙皿越しでも熱が伝わってきた。
「すごい、見た目全然分かんないね」
「分かったらゲームの意味なくなるし」
これが普通のたこ焼きなら美味しそうだと素直に言えたのに。中身が不明の具材であるが故に、真ん丸フォルムの恐ろしい物体としか思えない。
テーブルの上には六つのたこ焼き。水も用意して準備は出来た。
「じゃんけんで勝った方から選ぼ」
「え、あ、ちょ」
「じゃーんけーん」
僕の声は届かず、流されるがままグーを出す。
「やった、私の勝ちだね。これ食べようかな」
一回目、水月さんがカスタードで僕がたこ。
二回目、水月さんがいちごジャムで僕がチーズ。
ラスト、残りは餅とわさび。
たこは普通のたこ焼きだし、チーズも普通に美味しかった。
「もし僕がわさびだったら半分あげようか?」
「んーその時考える」
あーこれ食べないやつだな。
万が一辛すぎて最悪な事態になった時のために、最後のひとつは半分だけ食べることにした。
「せーので食べようよ」
「いいよ」
「せーの」
さすが出来たて。最後のひとつを食べる時まで温かかった。柔らかくもっちりした感触が顔を出す。
「ん!ふおいのひう(すごい伸びる)」
ということは。
「……無理……」
餅が入っていたのは水月さんが選んだ方。
見事わさび入りを引いた僕は残りの水を全て飲みきった。
真緑の物体。
これが抹茶だったらいいのにと、初めて抹茶を欲した。
いくらなんでも多すぎだろ。
鼻から抜ける辛味に耐えられなくてむせる。
「んふふふ」
「笑いすぎ」
食べ終えていた彼女が抑え気味に笑う。
これは好奇心だけで食べない方がいいと言おうとした時。
「ちょうだい」
「待って!」
彼女はなんの躊躇いもなく、わさび入りのたこ焼き半分を食べてしまった。
「からっ」
涙目になりながら水を一気に飲み干す。
自分も食べたから分かるけど、今後しばらくたこ焼きを見たくないかもしれない。なんてことを考えながら、彼女が落ち着くのを待っていた。
「食べない方がよかったでしょ?」
「でも湊大くん意図的に一口で食べなかったでしょ?」
わさび入りが最後まで残って自分の元に来るのは二分の一。食べたいと言い出したのは彼女だし、これで食べられずに未練がプラスされても嫌だから、と思って半分だけにしたけど。
「……まさかほんとに食べるとは思ってなくて。嫌じゃなかった?」
「私は別に平気だよ?」
そんなあっさり平気だと言われるのもな。
もしかして意識してたのは僕だけ……?
「ほんとに辛いね。ちょっと何か買ってくるよ」
その後、彼女が買ってきてくれたヨーグルトアイスを二人で食べた。
ヨーグルトアイス……甘酸っぱい。
口の中に残る強い香りも多少ましになってきた頃、外は夕方になっていた。
「ここって夜になるとイルミネーションやるんだね」
帰るために屋外の広場に出ると、階段や観葉植物、設置されたトンネルなどでイルミネーション用の電球が小さい光を放っていた。
「夜に見れたらもっと綺麗なのにね」
今日はこの後、彼女に予定があるため夜まで待てないけれど、また来た時に見ればいい。一緒に来る相手が僕じゃなくても。
「今日はありがとう。おかげで楽しかった」
「こちらこそ」
これで連休最後の予定が終わる。
「……」
駄目だ、落ち込むな。
これから先もう会えなくなるというわけではないのだから、いちいちしんみりするのはやめよう。
そう決めて彼女の方を向いた。
えっ……。
視線の先で、彼女な寂しげな表情を浮かべていた。
「また、一緒に……ううん!なんでもない、またね!」
何かを言いかけてやめた。それを聞く間もなく、早く家に帰って休むからと強引に切り上げられ、水月さんは駆け足で去っていった。
また一緒に。
その続きを考えるだけで、これからの期待が膨らんだ。



