ぶっきらぼうなロマンチスト

お母さんが喜ぶ花だ。
本当はお見舞いに行くまで花には綺麗と思っても、そこまで興味はなかった。
けれど、初めて花屋に入ったとき、大きな花束を店主が作っている最中だった。
赤い薔薇とかすみ草で出来た花束だ。その圧巻の美しさに見惚れていると、スーツを着た男性が扉をあけて入ってきた。その表情は気恥ずかしそうに、どこか決心したような面持ちだった。受け取りに来たんですけど、といい店主から受け取った時ほんの少し目を細めて帰っていったのがとても印象的だった。そこからふとした道端に咲いている野の花に気にかけるようになった。自分の名前が好きになった。

「そ。俺はあんまり興味ないけど。今日も来てくれたの?」

「はい。今日も素敵な花をいただきました。お母さんも喜んでくれて」

彼は前髪をヘアピンであげていて、Tシャツと学生ズボンと相変わらずの健康サンダルだ。
だから今日はよく表情が見える。その細眉がぴく、と釣りあがったのも。にやり、と笑ったのも。少し八重歯が覗くのもしっかりとわかる。彼は悪いことを思いついたように唐突に提案した。