元々お母さんはここの店の顧客である。
高校一年生の時、お母さんは入院していた。病名は知らされていない。病室で力なく笑う姿に、どうしようもなく悲しさが襲ったがそれよりもつらいのはお母さんだとわかっていた。どんどん痩せていく母を知ったのは、手首も握ったとき親指が重なる位置である。こんなにも細くすぐ手折ってしまいそうなほどなのかと驚いた。病室に来て一番初めに行うことは花瓶の水を捨て新しい花に差し替えることだった。こっそり、息を潜めて行う。個室の部屋で助かったのは扉さえ何とかすれば、普段閉まっているカーテンに気を付ければ見られることはないからだ。

お母さんに会うときに、眠っているとそれはもう生気は見られなくて、見ていられなくてわざと起こした。
桜が学校で楽しかったこと、困ったことなどを話した。それは面白おかしく話した。話自体は半分くらい盛っているが。ただお母さんは決まったように「お父さんは?」と聞いた。
心臓をきゅ、といつも握られたような感覚に陥る。