彼は一週間前に出かける日、朝九時集合と言った。どこに行くだとか、そんなことは一言も言わずにただ暖かくしてきてほしいといった。いつもの彼だったらデートの場所も時間も基本私からで、食べたいものがあればその時に仕事帰りにラーメン屋や焼肉に連れていく。もう付き合って二年、で出会って六年だ。今私が二十二歳で彼は二十四歳だ。

彼はカジュアルな紺のデニムジャケットに、クリーム色の長袖シャツを合わせてチノパンを履いていた。足元はスニーカーであり、なんだか少しほっとした。車は彼の愛車のいつものミニバンだ。

「乗って」

そういって助手席のドアを開けてくれて、桜は驚いた。
少し妙な胸騒ぎと落ち着かなさを感じた。

「え、なんでなんで」

「たまにはいいだろう」

「毎回やって」

「めんどくせえ」

そういいつつも彼はご機嫌なようで、嬉しそうに目を細めた。
桜はなにがなんだかわからなくて、軽口は叩きつつも落ち着かない気持ちになった。
彼はカーナビに目的地を入力した。

愛知県豊田市…

愛知県!?

桜はびっくりして目を向いた。彼は驚いた様子もなく、ひょうひょうと車を発進させた。

「今から名古屋いくの!?」

「ああ…」

「なんで!?」

「なんでも」


付き合ってきて、こんなこと初めてだった。彼の思考は読めない。三時間くらいかかる目的地に眩暈がしながらも、彼との出会いを窓の外を見ながら振り返っていく。