俺から瞳、逸らさないでね



なに言ってんの。



……名前呼ぶの、今日が初めての人が




「おんもっあんた何個持ってきたの」

「え、先輩5人でしょ、後輩20人でしょ、今年どんなけ入ってくんだよありがとう!!はあ、同期のはもう無理、お互いいらねって同情したわ。はあ、はあ、がちやばい。バレンタイン前に部活やめたあのこ頭いいまじで」



……袋の底抜けそう。


学校付近まで来ると、重たそうな紙袋を抱える人達がちらほら。

前日に渡す人もいんだな。

門を抜けてイヤホンを耳にかけると、気の毒な話を耳にし思わず苦笑いを零した。

バレンタイン前日。

わたしには関係ないけど見る分にはいい。



「……」 



……ここにも、ある意味気の毒な人がいた


教室に入ると、朝から歴史の教科書とにらめっこしてる人がひとり。

勉強熱心だなと感心しながら机にかばんを置き、背後から内容を覗き込んだ。

そこに歴史に名を残した人物は誰ひとりおらず。あるのはハートやきらきら、美味しそうなお菓子の写真。


【簡単にできるチョコケーキ】


そう書かれたページを、まじまじと大真面目に見つめる友達にツボって、まじで息が苦しい。