「いやぁ?なぁんもないですけど」
渡したいなら渡してしまえばいい。
好きなら好きって言ってしまえばいいのに。
実唯と玲音は同じ目をしている。
ただ、タイミングがずれてるだけで。
「……いっかい告ってみ」
「はっぁぁ?!?!」
「あっぶっ」
バランスを崩した実唯がすってんころりん……ならず。
「あぶなぁ!!」
ぎりぎりのところで、ほら。夫が助けに来てくれた。
「あんたいま胸さわった!」
「はっ?助けたのに!」
「変質者!!」
「へっへんしゅつしゃ?!……っ自意識過剰!」
……はいはい。
痴話喧嘩。仲良し、仲良し。
やれやれと思いながら頬杖をつくと、ふと遠くで目が合った。
ぼやけた視界でピントが合うみたいに、瞳の奥に吸い込まれそうで、
「……ん、ん?」
……なんだ。
わたしを見てる?
後ろを振り返ってみても、誰も透(とう)と目を合わせている人はいない。
じゃあ、わたし……?
わたしは真ん中の列の後ろから二番目の席で、透はなぜか教卓で頬杖をついている。
……あんなところでなにして……
「ねぇコトも見てたよね?!」
んわぁ痴話喧嘩に巻き込まれたメンドクセ。
「コトちゃん俺かわいそうだと思わない?!」
「コト!」「コトちゃん!」
「どっちもどっち」
「「……すみません」」
やれやれと思いながらも、今回はふたりに助けられた。