「……」
「来週、もう一度、臨時役員会を開こう。その時に削減具体案をそれぞれの取締役は提案するように。それと、高橋君の新生三カ年計画の内容はまだ極秘にする事。事前に漏れれば、社内で良からぬ噂が立つ。以上」
社長が席を立ち、一斉に全員が起立して社長を見送った。残された取締役の中には、憎悪にも似た感情を視線で表しながらこちらを見ている役員も居たが、言ってしまった事を今更撤回するつもりもなく、これは今後もずっと続く事なのだという自覚をこの時感じ取っていた。良い人で通す事は容易い。だが、何かを変えるには多少の対立もつきもので、そのために俺がその役目なのだとしたならば、甘んじて受けようと思う。会社の未来を愛すべき社員の一人として……。
それから文字通り、来週の役員会に向けてそれぞれの取締役は、削減具体案を提出するため、滅多に経理の部屋などに姿を現さない何人もの取締役が新人の俺のデスクを訪ねてきて、経理部長はもとより、会計担当の上司は何事かと言った表情で慌てながら取締役を迎えていたが、別室に移って尋ねてきた取締役と話す時間など日頃の業務もあるためないはずなのに会議室での応対を余儀なくされ、自分の仕事は遅れに遅れを取っていた。しかし、その甲斐あって、次の臨時役員会ではそれぞれの取締役から削減具体案が提案され、役員報酬カットの原案も満場一致で可決された。これから先の三年間、否、社長曰く、子会社等のスリム化は二年目からではなく、初年度からの実施をすべく来年の株主総会で赤字決算報告をしながら承認を得てすぐに始める構えだとの事だったので、来年、再来年は会社にとって正念場になるだろう。支店の収支の見直しもしたい。もっと時間が欲しいと最近頓に感じている。いつもより少しだけ早く会社を出て、師走だという事に街のイルミネーションに目を向けて実感した。道行く擦れ違う人々を見ながら、ふと思い出した。そう言えば……。


