新そよ風に乗って ① 〜夢先案内人〜


「はい。出来る事からの再生を。その再生から最盛を目指したい所存です」
「しかし、ライバル会社はこんな焼け石に水のような事はしていないし、知られたら笑われるのがオチですな」
ライバル会社の東日航空の事か……。俺は、あの会社の資産運用と収支決算には疑問を抱いている。確かに見た目上、黒字を辛うじて維持しているが、あの乱立させているグループ会社の新規設立や土地売買に関する資金調達は、採算が取れると見込んでの事なのか疑問視される。ともすれば、借金だけ残るのではないだろうか。バブル経済の真っ直中での土地買収。立地条件の良さで売っているビルも、それに掛かった費用はバブル並の高取引だったに違いない。すぐには出ない利潤と経常利益が黒字なためのマジック。経常利益が黒字であれば、その後二年は持ち堪えられる数字。東日航空の黒字はここ何年と続いているわけだから、その土地買収などの費用などを支払った後の収支がたとえ赤字だったとしても、さほど危機感を与えないが故の油断と更なる投資。五年後、否、場合によっては三年後ぐらいにはその結果が見え隠れしてくるだろう。
「役員報酬のカットを実行すると、どのぐらい年間浮くのかな? 経理部長」
「そ、それは……」
社長に意表を突かれた感の経理部長は、咄嗟に答えられず口籠もった。
「高橋君。わかるかね?」
役員報酬までは、俺のところまでは資料が下りてこない。その権限すら与えられていないのだから……。
「申し訳ございません。私は、その資料を見る立場にございません」
「経理部長。すぐに高橋君にも、S1クラスのID所持を」
「は、はい」
俺に? S1クラスのIDって……。
「社長。役員報酬もカットなのでしょうか?」
役員報酬はきっと、これだけの取締役と外にも監査役などを入れれば相当な金額になるだろう事は想像が付く。その金額をカットするとなれば、年間どれだけ浮くだろう。
「社員の士気を高めるには、まずは上層部が行動を示さなければいけない。指示をするのは簡単なんだよ。それを実践する第一線で働いている社員に対し、せめて私達が出来る事なのではないかね?」