「そうなんだ。俺、あまり雑誌とか見ないから、どっかの業界人と違ってさ」
「ハハッ……。確かにそうだな。こんな仕事でもしてない限り、女の雑誌なんか見る機会もないよな」
彼女が載っている雑誌を、俺も敢えて見ることはしなかった。見せられれば見ただろうが、そんな彼女も俺に雑誌を見せる事もなく今まで来ていたので、それはこれからも変わらないだろう。
「だけど今、結構売ってる感じのモデルさんだし、雑誌以外にもモデルとしての仕事がらみでテレビとかにも出てくるだろうな。最近は、テレビ局とタイアップでファッションショー開催したり、雑誌とコラボレーションの企画もあったりして、本来のモデル業の仕事だけでなく、タレント性で売り出す傾向が強くなってきてるから」
「そうなんだ。そういう時代なんだな」
一昔前では、考えられなかっただろう。雑誌の中から飛び出てくるような大衆性を持ったモデルなど。雑誌の中だけの仕事故、その肉声など聞く事もなかっただろうし……。
「だから、もし……」
「仁。わかってる」
「貴博……」
珍しく自分から話の腰を折った。仁が言わんとしているその先の台詞がわかり、敢えて口にして欲しくはなかった。

「何、何?深刻な顔しちゃって二人とも。もっと楽しいお酒にしなきゃ、悪酔いするよ?」
「明良のテンションに合わせてると、明日の仕事に響きそうだ」
「あぁ、そうだな」
「ハッ? この学割効く明良様に向かって、そんな態度取れるわけ? 19時まで学生同伴ならアルコール類半額は、大きいと思うけど」
「自腹切った方が、まだ良かったりして」
呑むといつも学生時代から仁が明良をからかう光景をよく目にしていたが、社会人になって、こうしてゆっくり三人が顔を揃えて呑むというのは希有な事になりつつあった。これで明良が卒業したら、もっと忙しくなるのだろう。まぁ、社会人としての時間配分が初心者に近い俺達にとって、それは経年の身のこなしが解決してくれるというものかもしれないが。