新そよ風に乗って ① 〜夢先案内人〜


カレンの言葉で、貴博さんの事で頭がいっぱいになっていた。忙しいはずの貴博さんがクラブで女の子に囲まれていた。まぁ、それは会社の中には女性も居るだろうし、あの容姿だもの。モテないはずがない。でも……そのツーショットだった親密な女性が気になった。私への電話やメールは週に一回程度はあったけれど、ない時もあるのに、女性と呑みに行ける時間はある。貴博さん……。左手の掌を見ながら、ギュッと左手を被うように右手で握り締めた。「でもこんなに長く付き合ってるのに手を出してこないなんて、何か問題有りなんじゃない?」と、何気なく言ったカレンの言葉が引っ掛かっていた。そう言えば、貴博さんとあの夏、沖縄の海でキスをしてからあれ以来、何もない。それ以上の事も。手を繋いだ事はあっても、それ以上には発展しなくて……。
そんな週末、貴博さんから連絡があって、土曜日、久しぶりに逢える事になった。食事をして、去年も見た銀杏並木を見に行くと、去年より訪れた時期が遅かったせいか、ちょうど見頃で黄色銀杏の葉のジュータンが辺り一面に広がっていた。去年が思い出され、そっと貴博さんと手を繋ぐと、貴博さんは何も言わずに微笑んでくれた。良かった……振り解かれなくて。貴博さんと手を繋ぎながら、絵画館に向かって歩いていく。カレンが言っていた言葉が思い出された。貴博さんに限って、そんなカレンが思っているような事はないはず。前方で、抱き合ってキスを交わしているカップルの横を通らなければならなくなった。すると貴博さんは、来た道を戻ろうとして、私の手を引っ張った。
「貴博さん?」
「もう遅いから、帰ろう」
「は、はい」
何か、熱いシーンを見せつけられたせいか、ドキドキしている。貴博さんも同じかな? ふと、隣に居る貴博さんの顔を見上げると、普通に銀杏の木を眺めながら歩いている。何だ、私だけか。送ってくれると言った貴博さんのお言葉に甘えて駅からの帰り道、並んで歩きながら何気なく口に出して聞いていた。
「お仕事、忙しいですか?」
「ん?そんな事はないよ」
そんな事はないって……。貴博さん。それじゃ、時間があるって事なの? 口に出すのが遅かったのでもう家の前に着いてしまっていた。