「ありがとう。それじゃ、もう遅いし、また連絡するから」
「あっ、はい。わざわざありがとうございました。おやすみなさい」
「おやすみ」
何度も、おめでとうございますと言ってしまっていた。貴博さんが公認会計士の試験に受かったんだ。嬉しさが込み上げてきて、電話を切った途端、夜中だというのに万歳をしていた。でも、何か貴博さんの電話の向こうから書類を捲る音がしていた気がする。貴博さん。まだ仕事してるのかな?それとも、家で合格通知かなんかを捲っていた音かもしれない。今日はいい夢が見られそうだ。明日の仕事も早いから、もう寝なきゃ。
車で行くより電車で行った方が早いので、今朝は電車に乗って撮影現場に向かう途中、カレンと偶然、電車で一緒になった。
「泉、仕事順調?」
「うん。お陰様で、お仕事貰えてるよ。カレンは?」
カレンはあれから映画のオーディションを受けたりしながら、まだ女優への道を諦めていない。
「今日もこれからオーディションなの。そうそう、そう言えばこの前、貴博さんを見掛けたわよ」
「えっ? 何処で?」
貴博さんという言葉に、どうしてもすぐ反応してしまう。
「確か……六本木のクラブだったと思うけど、女の子が沢山周りに居て、貴博さんを取り囲んでた感じだった。泉。貴博さんとはどうなってるの?まだ続いてるんでしょ?」
続いてるって……。
「う、うん。貴博さんの仕事も忙しいから、偶にしか逢えないんだけど……」
「えっ? それ、ちょっとおかしくない?」
「何で?」
「だって、私が貴博さん見掛けたのって、その一回だけじゃないもの」
エッ……。
「さっき言った六本木のクラブで見掛けたのは結構前だけど、最近、また見掛けたわよ。しかもツーショット。女性と親密そうにお酒呑んでた」
女性と? しかもツーショットって……。
「その女性って……」
「ミサさんじゃないわよ」
あぁ、良かった。良くはないけれど、ミサさんでなくて良かった。
「泉。変なこと聞くけど、貴博さんとどこまでいってるの?」
「えっ?」
「もう、すべて許しちゃった?」
「カレン!」
耳打ちされたカレンの言葉に、思わず大きな声を出してしまい、電車内の周りの人からジロジロ見られてしまった。
「ふーん……。その反応だと、まだみたいね。でもこんなに長く付き合ってるのに手を出してこないなんて、何か問題有りなんじゃない?」
「問題有りって……」
「若い男子なんだから、普通ねぇ……。悪いけど、他に女居るとか?ツーショットで親密そうな女性も存在しているし、何か怪しい感じよね。泉には手を出して来ない事も……。あっ、ごめん。私ここで降りるから、またね」
「う、うん。気をつけて」


