新そよ風に乗って ① 〜夢先案内人〜


泣いてしまっている事を謝っているのか、忙しい貴博さんに時間を作って貰える喜びからの涙なのか、もうよくわからなかった。それでも貴博さんは、優しく頭を撫でてくれて黙って私が泣き止むまで待っていてくれた。

貴博さんの卒論と卒業試験が終わり、卒業式の翌日、私の仕事が入っていたので、ほんの僅かな時間だけだったが貴博さんに逢えた。大学を卒業して間もなく社会人となる、まだ三月中は学生である貴博さんに逢える最後の日だった。卒業のお祝いにパスケースをプレゼントすると、とても喜んでくれて、その笑顔を忘れないよう、嫌がる貴博さんを説得して一緒に用意してきていたデジタルカメラで、通りかかった人に画像を撮って貰った。その画像を縮小して、携帯の待ち受け画面にしている。
社会人になった貴博さんは、予想通り忙しい毎日を過ごしていて、土、日は休みだったが、私の仕事が地方であったりして、あまり逢えない。けれど「仕事が増える事は良い事だ」と、貴博さんは言って励ましてくれていたので、仕事に精を出しながら貴博さんに逢える日を楽しみにしていた。ミサさんと仕事で一緒になる事はあったが、ミサさんの事は意識せず、普通に接するよう勤めていたが、ミサさんからも貴博さんの事でとやかく言われる事もなく、仕事の会話だけをしてくれていたので、内心ホッとしていた。貴博さんの居ないところでミサさんに言われたら、やはり凹んでしまいそうで怖かったから……。
そんな貴博さんから、秋も深まる十一月の夜、珍しく0時過ぎに電話が掛かってきた。
「もしもし」
「高橋です。こんばんは」
「こ、こんばんは」
久しぶりに聞く貴博さんの声に、心地よい緊張感でいっぱいになる。
「公認会計士の試験に受かったよ」
「貴博さん!ほ、本当ですか?」
「あぁ、今日わかって、早く君に知らせたくて……。遅くに電話して悪い」
「ぜ、全然ですよ。おめでとうございます。うわぁ。本当に受かったんですね。嬉しいです。おめでとうございます」