新そよ風に乗って ① 〜夢先案内人〜


エッ……。
「わ、私……ですか?」
右手の掌を広げて見ていた貴博さんが、黙って頷いた。
「大切な人の温もりを失いたくないと願った時、人はその温もりに触れていた部分を無意識のうちに、自分の肌でまた感じようと顧みる」
貴博さん?
掌に呟くように言っていた貴博さんが視線を上げると、その右手で私の左手をギュッと握った。
「銀杏並木でしていた君の仕草の意味が、やっと俺にもわかったよ」
「貴博さん。あの……」
貴博さんから手を繋いでくれた事に驚きを隠せず、更に、あの時の私の気持ちを悟られてしまったようで恥ずかしくて仕方がない。
「心恋し温もり……。些細な事だが、とても大切だ」
ウラゴイシ温もり?
「ウラゴイシって、貴博さん。どんな字を書くんですか?」
「ん?ウラは心。コイシは恋にひらがなのしと書いて、心恋しと読むんだ」
「心恋し温もり……」
いい言葉だな。凄くしっくり来るというか暖かくなる言葉だと思う。
「俺にも、そして君にも目指すものがあって、お互いなかなかこれから時間は取れなくなるかもしれないが、なるべくその温もりを忘れないうちに会いにくるから」
「貴博さん」
その言葉を聞いて、手を離して貴博さんの胸に飛び込んでいた。そんな私を貴博さんは受け止めてくれている。こんな嬉しい事はないはずなのに、泣けてくるのは何故だろう。将来に不安があるからだろうか。いつ会えるともわからない貴博さんとの時間。今、この時間を一緒に過ごせている事に幸せを感じながら、また逢えない日々が続く事への寂しさからだろうか。いろいろな思いが混ざって、涙となって表れていた。
「ごめんなさい……。貴博さん。ごめんなさい」
「フッ……。何で謝る?君は何もしていないだろう?」