「そうですね。本当に日が沈むのも早いですよね」
ブランコから立ち上がって貴博さんに続いて公園を出ると、さっき歩いてきた道が日陰になってしまっていた。
「クシュン!」
日が陰ってしまったので、急に風が冷たく感じられる。やはりジャケットを着てくれば良かったかな。でもまた歩いていれば暖かくなるかもしれない。
「ジャケット持ってくれば良かったみたいだな」
貴博さん……。
両肩に少し重みを感じると思ったら、貴博さんが着ていたジャケットを肩から掛けてくれていた。
「あっ、大丈夫ですから。貴博さんこそ、風邪ひいちゃいますから来て下さい」
「フッ……。大丈夫。男の方が体温高いから」
「貴博さん」
肩から掛けられたジャケットから、ほんのり薫る貴博さんの香り。本当にこの香り好きだな。きつくもなく、嫌味のない柑橘系の……。
「この道も俺達が見ている風景と、子供が見ている風景とでは全然違うんだろうな」
貴博さんは、ちょうど前を両親と一緒に歩いていた子供二人を見ながら、そう呟いていた。
「そうですね。多分、もっともっとこの道も広く感じているのかしら」
兄弟の仲睦ましい様子を微笑ましくみながら貴博さんと歩いていると、肩からジャケットが落ちてしまった。すると、貴博さんがジャケットと取って私に袖を通すよう促した。
「ちゃんと着た方が、暖かい」
「すみません……」
些細な事なのに、緊張と共に嬉しさが込み上げる。
「どうかした?」
「……」
嬉しさが、表情に出てしまっていたのだろうか。貴博さんに顔を覗き込まれてしまった。
「いえ、何か嬉しくて……その……。馬鹿みたいですよね。こんな事に私……感動してしまって……」
嬉しいはずなのに涙が零れていた。その涙をそっと親指で拭ってくれた貴博さんの仕草で、涙が出ていた事に気づくなんて……。
「同じなんじゃないのかな?」
エッ……。
ポケットから出したハンカチを私に渡してくれながら、貴博さんが空を見ながら呟いた。


