新そよ風に乗って ① 〜夢先案内人〜


「ブランコか、懐かしいな」
通りかかった公園にあったブランコに目がいった貴博さんは、そのまま公園の中へと入っていき、ブランコに腰掛けた。二台並んでいたブランコの一台に私も座る。ブランコに乗るなんて何年ぶりだろう。あれほど地面に着きそうで着かなかった足が、今では持てあましてしまうほどブランコの高さが低く感じられる。
「子供の頃の視界って、本当に低かったんだろうな。低かったから尚更、視野も狭かった……」
貴博さん……。
「小学校のあんなに広く感じていた教室も、校庭も、高校ぐらいになってクラス会で学校に行くと、驚くほど机も小さく感じられなかった?」
「それ感じました、感じました。廊下とかも広いと思ってたのに、凄く狭く感じられたりして……」
小学校の先生は小さい私達を相手に本当に大変だったんだなと、自分が大きくなってみて初めて気づいたものだった。
「このブランコの鎖と鎖の間に掌を挟んで泣いたりしてた奴とか、鉄棒でマメが出来たとか。フッ……。懐かしいな」
はにかんだように笑った表情から、貴博さんの小さい頃に思いを馳せてみる。貴博さんはどんな子供だったのだろう?でもきっと性格とかは、それほど変わらない気がするのは私だけだろうか。昔から無口ではあったと思う。でもそつなく、何でもこなせる子供だったんじゃ……。
「貴博さんは、小さい頃はどんな感じだったんですか?」
「俺?俺は、ごく普通の子供だったよ」
ごく普通って、貴博さん。そんなアバウトな言い方じゃわからない。
「でもきっとスポーツ万能だったんじゃないですか?」
立ってブランコを漕ぎながら適度なスピードで揺られていた貴博さんが、そのスピードを緩めブランコに座ると地面に足を着いた。
「サッカーや野球のリーグに入っていたわけでもなかったし、ずば抜けて勉強が出来たわけでもなかったから中学受験は失敗するし、本当に普通の子供だったよ」
「……」
「でもその普通で居る事が、俺にとっては一番居心地が良かったが、それは辛くもあった」
「辛くもあったって、貴博さん……」
「そろそろ行こうか」
ブランコに座っていた貴博さんは立ち上がると、私に振り向いた。
「日が短いな。まだ16時前なのに、もうこんなに日が傾いている」