「はい。どうぞ」
貴博さんの姿がモニターに映り、オートロックを開けると中に入った貴博さんの後ろ姿が画面から消えた。あぁ、もうすぐ貴博さんが部屋に来る。信じられない……。夏に沖縄の海で再会した貴博さんが、まさか部屋に来るなんて想像もしていなかった。もう一度、インターホンが鳴ってドアを開けると、そこには貴博さんが立っていた。
「こんにちは」
「急に会おうとか言って、悪かった」
「いえ、そんな……。どうぞ上がって下さい」
「……」
「貴博さん?」
貴博さんが黙って私の瞳を捉えているので、その静けさに堪えきれず次の言葉を急かすように、貴博さんの名前を呼んだ。
「散歩……しようか」
「えっ?」
散歩って……。
「ここに来る時は、いつも夜ばかりで明るいうちに来たことがなかったから。どんなところなのか、天気もいいから少し周りを見てみたくて……。でも気が進まないなら、無理にとは言わないけど」
「あ、あぁ、そういうことですか。鍵取ってきますから、ちょっと待ってて下さい」
急いでそこら辺にあった小さめのトートバッグに鍵と携帯だけ入れて玄関に向かいドアを開けると、少し離れたところで貴博さんは通路から外を眺めていた。慌てて鍵を締めながら貴博さんの後ろ姿を見ていると、今、本当にここに貴博さんが居る事が夢のように思えてしまう。それと同時に、その背中に後から抱きついてみたいという欲求に駆られている自分は、まるで芸能人に恋をしているようなミーハー的感覚と何ら変わらないようで、落ち着け!とばかり、胸に左手を当てて大きく深呼吸した。
「貴博さん。お待たせしました」
「寒くない?」
エッ……。


