新そよ風に乗って ① 〜夢先案内人〜

この百円玉ではなく百円硬貨として、良い意味でも悪い意味でも円滑に活用していく事が、これからの俺に課された使命。螺旋状に絡まっていた過去の思いを解きつつ……。ポケットの中で携帯が振動していた。取り出し画面を見ると、彼女からだった。留守電にすら何も入れずに切ってしまったから、きっと何事かと思って掛けてきたのだろう。返って悪い事をしたな……。
「もしもし」
「あの、貴博さんですか? 坂本です。お電話を頂いたようで……。ごめんなさい。電車に乗っていたもので、出られなくて」
「こんにちは」
「あっ。こ、こんにちは。嫌だ、すみません。ご挨拶もしないで私……」
携帯の向こう側の彼女の行動が目に見えるようで、思わず笑みを浮かべながら水面に反射した陽の光と共に、水嵩が増し水没していた中州が少しだけまた姿を現し、そこに生えていた雑草が川の水の流れに身を任せるようにふわふわと揺らいでいるのが、何とも優雅に俺の目に映っていた。思いのままに身を任せるのも、時に必要なのかもしれない。
「大した用事ではなかったから、留守電に残さなかったんだけれど……。これから仕事?」
「いえ、仕事はもう終わって今、駅に着いたところです」
「そう。用事がなければ、これから……会おうか」
「貴博さん……。あの……」
「用事があるんだったら、急な事だし全く気にしなくていいから」
「そ、そうじゃないんです。あの……。本当に貴博さんですよね?」
ん? 何を言ってるんだか……。
「フッ……。君の掛けた電話の相手は?」