新そよ風に乗って ① 〜夢先案内人〜

モデルの仕事に曜日などは関係ない。差し迫ってメールを打つほどの事でもなかったので、電車に乗って最寄り駅で降りると、かつて伯父さんと歩いた河原を目指した。
何年ぶりだろう。恐らく中学以来だ。高校から私立に通うようになってからは、部活で遅くなったりして殆ど河原を通って帰る事などなくなっていた。中学受験をした小学六年生の冬、自分では試験は満点のつもりだった。誤差があったとしても、多分1、2問程度なはずで本当に第一志望の学校の試験には自信があった。それなのに、見に行った合格掲示板に俺の番号はなかった。その日は第二希望の学校の受験を終えてからお袋と見に行き、お袋は俺が試験中に合否を見に行っていたので先に知っていたが、敢えて俺に自分の目で確かめさせるべく試験が終わってから一緒にもう一度、見に行ったと後々聞かされた。一番自信のあった第一志望を落ちた俺は、第一志望の中学に何故落ちたのかどうしても納得できなくて、受験会場にも両親揃って来ていた子達の事を思い出し、父親がいないせいで家庭環境から落とされたのではないかと言ったが、落ちたのは事実で理由云々ではなく貴博の実力がなかっただけと、兄貴に鼻であしらわれてしまった。俺はその時、自分を恥じたと同時に、悔しさから第二志望の私立中学には行かず、高校受験で再度その学校を受験したくて公立の中学に進んだ。幼い自分の吐き出した言葉で、どれほどお袋が傷ついたかと思い出しただけで胸が痛む。心の何処かで求めていた父親の存在。想像の中で描いていた父親像。その描いていた父親像は、父親の愛情を知らない俺は伯父さんとダブらせていたのかもしれない。その父親像とダブらせていた伯父さんは、実の父親だった。その事実を告げられた時、不思議と憎しみは湧かなかった。そして今、伯父さんが父親で良かったと思えている。それはきっと、父親が誰なのかがわかった事もあるのだろう。ずっと心に立ちこめていた暗雲がすっきりとまではいかないが、少し視界が良くなったようだった。財布から百円玉を手に取ってみた。