いつも家に来た時は、必ず伯父さんと二人で河原を歩きながら、途中、家に帰る折り返し地点で必ずくれた百円。その百円を貰える事が楽しみだった俺は、伯父さんが何の仕事をしているのか尋ねた事があった。すると伯父さんは、俺の視線に合わせるようにして百円玉を持ち、「この百円を、千円や一万円に。その千円や一万円になったお金を、どれだけ増やせるか。百円でガムを買う時、同じガムだったらどのお店が一番安く買えるか……」俺にはまだ幼すぎて、その意味が理解出来ていなかった。ただ、同じガムを買うなら何処のスーパーが一番安いかだけは知っていたので、「駅前のスーパーが一番安いよ」と答えた記憶がある。あの時、理解出来なかった、「百円を如何に使うかが問題なんだ」と伯父さんが言った言葉の意味が時を経て、今、ようやくわかった気がした。伯父さんは公認会計士だったのか。
「高橋君の就職先は、何処だったかな」
「あっ、はい。全日本トラベル空輸です」
「そうだったな。そう言えば、門倉君の法人会計事務所でも全日本トラベル空輸は担当してなかったか?」
いったいこの会話の流れの先には、何が待ち受けているのだろう。
「してますよ。私が担当です」
すると、伯父さんはジャケットの内ポケットから名刺入れらしきものを取り出すと、その中から名刺を一枚、俺に差し出した。
「日本公認会計士法人会 監査法人担当 公認会計士 門倉司……」
伯父さんは教授にも名刺を渡したらしく、記載されている肩書きを教授が声に出して読んでいる。監査法人担当という事は、決算時や総会等の書類作りなどをやっているはずで、俺がこれから入社後にやろうとしている仕事と殆ど被ってしまう。しかしながら、社外の監査役も必要な事もあるので、非常勤と常勤社員という隔たりがあるから、すべてが被るとは一概には言えない。
「話の意図が見えず、高橋君も限界だろうから、そろそろ本題に入ろうかね」
教授……。
「高橋君。今日、君を呼んだのは、門倉君が君と是非とも話したいという希望でね」
伯父さんが?
目の前に座っている伯父さんの顔を見て、隣に居る「会わせたい人が居る」と言ったお袋の顔を見ると、平静を装っているが、柳眉は心の表れからか逆立っていた。
「門倉君は、大学も一緒で専攻も一緒だったんだ。だが、頭の出来が門倉君の方が断然上だったがな」
「そんな事はないですよ。でなければ、教授などなれません」
教授と伯父さんは、大学が一緒で専攻も一緒だったのか。
「君に何時だったか、良い手本も身近に居ると言った事を覚えているだろう?」
「はい」
教授が良い手本も身近に居ると合宿の時に言ったのは、新井さんの事ではなく、伯父さんの事だったのか。その手本ともなる伯父さんとの対面をさせるために、俺をここに呼んだ。それならわかるが、だとしたら、何故お袋までここに居るのだろう。


