新そよ風に乗って ① 〜夢先案内人〜


「無理して時間を作って束の間会ったとしても、その後に控えている事が気になって、結局落ち着かない気がするし、かえって負担になって長くはそれが続かない気がする。会わない日が、心を育てる場合だってあると思わないか?この場合、会えないというのかな。人間は、相手の表情が見えると落ち着く習性があると思うけど、会わない、会えないからこそ相手が見えてくる事もある。いつも会っていた時には気づけなかったという台詞をよく耳にするが、それはそういう事だと思う。相手の事を考え、思いやる気持ちを持ちながら日々過ごすという事は、毎日顔を合わそうが、ずっと会えない日が続いていようが、その心の根底にあるものは同じだと俺は思う。毎日会っていると、それが薄れてしまって気づく事が気づけなかったりするからこそ、会っていた時には気づけなかったという台詞が出てくると……。確かに、会えれば安心出来る。しかし相手を信じているから、会えないからこそ気づける事もあるという後者を俺は重んじたい」
会えない日が、心を育てる。会えないからこそ気づける事もある。相手を信じているから……。
「貴博さん」
「だから、次の約束はしない。良い意味でも悪い意味でも、俺は束縛するのもされるのも嫌いだから」
貴博さんに言われると、不安な気持ちはなくなっている。心が穏やかになれて、いつ会えるともわからない次に会える日を楽しみに待てそうな気がする。
「貴博さん。また、次に会える日を楽しみに頑張れそうです」
「そう」
あっ。貴博さんが、沖縄で見せてくれた笑顔だ。ずっとこの笑顔が見たくて、会いたくて仕方がなかった。今、その笑顔は私の目の前に広がっていて……。
「成長した君にまた会える日を楽しみに、俺も頑張れそうだ」
その悪戯っぽく笑った貴博さんが、大好きなのに……。思いを抑えきれなくなって、運転席の貴博さんの胸に飛び込んでしまっていた。そんな私を貴博さんは、驚く出もなくごく普通に受け止めてくれている。きっとモテなかったわけがないから、こういう場面には慣れているのかもしれない。
「寒くなるから、風邪ひかないように」
貴博さんが頭の上で言いながら、そのまま髪に唇を押し当てているのがわかる。胸に飛び込んだまま貴博さんの温もりと共にするこの香りが、昼間の荒んでいた冷え切った心に潤いと暖を与えてくれていた。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
貴博さんの車が見えなくなるまで送りたかったのに、寒いから駄目だと言われて渋々部屋に入ると、下でエンジンを掛ける音がしていた。貴博さんは私が部屋に入るのを見届けてくれていた事に、また一つ喜びを感じながら眠りに就いていた。

「貴博。今度の日曜日、時間ある?」
「何、いきなり」
お袋が部屋に入ってくるなり突然そんな事を言い出し、卒論の資料集めにパソコンに向かっていた俺は、キーボードを叩く手が止まりそのまま椅子を回転させてお袋を見た。
「会って欲しい人が居るのよ」
会って欲しい人?