銀杏並木の下で、貴博さんと握手を交わしていた。貴博さんに握られた私の右手は、熱を帯びたようにみるみる汗ばんでいく錯覚に陥る。ギュッと力強く握られた右手の中に、自分の手がすっぽり入ってしまうほど貴博さんの手は大きく頼もしかった。
「そろそろ帰ろう」
「はい」
握っていた貴博さんの右手の力がスッと抜けって、離ればなれになってしまったお互いの右手。自分の右掌を広げて見ながら左手で下から支えるように握ると、そのまま右手の中指と人差し指の指先を自然と唇に当てていた。貴博さんの手の温もりが、だんだん薄れていく。
「どうかした?」
このまま貴博さんの温もりが、なくなってしまうのは嫌だ。
「貴博さん……。手を繋いでもいいですか?」
驚くほど自分でも大胆な言葉を発して言ってから恥ずかしくなってしまったが、その言葉に貴博さんは、私の顔を覗き込んでいる。きっとあまりにも子供じみていて、何言ってるんだろうと呆れているのかもしれない。
「別に、断る理由はないな」
エッ……。
すると貴博さんは、すぐに左手で私の右手を掴んで手を繋いだ。
「……」
どうしよう。何か言わないといけないのだろうけど、何も言葉が出てこない。チラッと隣に居る貴博さんを見ると、銀杏並木を見上げながらまったく普通に歩いていて、何ら動じている様子もない。無言のまま銀杏並木を歩いていたが、ふと歩く速さを貴博さんは私に合わしてくれていた事に気づいてしまい、その後いつもよりもっと遅い歩調でわざとゆっくり歩いていた。貴博さんと二人だけの時間を少しでも長く、そして繋いだ手を離したくなかった。
「寒くない?」
「えっ? あっ。大丈夫です」
夜になるとグッと冷え込んでくるが、今はそんな空気の冷たさも火照った心と右手には心地良い。
駐車場まで戻ってきてしまい、車を発進させた貴博さんはそのまま私の家へと真っ直ぐ向かってしまい、とうとう車から降りる時が来てしまった。
「今日は、ありがとうございました」
「いや、こちらこそ。また連絡する」
連絡するって……。貴博さん。ずっとまた合えない日が続いてしまうのだろうか。
「あの……。貴博さん。今度はいつ頃会えるんでしょうか。私、その目標がないと……」
すると貴博さんは、少しだけ運転席の窓を開けて煙草に火を付けた。
「……」
煙草を吸って窓の外に煙りを吐き出していた貴博さんは、問い掛けには何も答えてはくれず黙ったままで、卒論や会計士の勉強やバイトに忙しいのをわかっていて言ってしまった事を後悔していた。
「ごめんなさい。つい……」


