貴博さん。せめて、挨拶ぐらいしたかったのに……。
空港からのバスの時間がまだ少しあったが動きたくなかったので、というか動く気力がなかったのかもしれない。
そのままバス停でまだまだ来ないバスを待っていたが、ふと貴博さんのメールアドレスが見たくなって携帯のアドレス帳を開くとメールが一通届いていた。
いつものようにメールを開いた途端、携帯をギュッと握り直して画面に釘付けになってしまい、画面を食い入るように見つめる。
メールの発信者は、貴博さんからだった。
—お疲れ様。これからいろいろ大変だと思うけど、自分のペースで一歩一歩夢に向かって下さい。また連絡します。貴博—
貴博さん……。
携帯の画面を胸に押し当て、目を閉じた。
メールを返すべきか否か迷ったが、ひと言だけ返信しようと、バスを待ちながら貴博さんにメールを打つ。
—お疲れ様でした。貴博さん、ありがとうございました—
散々打ち直した結果、この一行で終わりにしたが、頑張って下さいと貴博さんに言うのはおこがましい気がして、どうしても言えなかったから。そして、忙しい貴博さんにまた会えますか?など、到底聞けるはずもなく……。
貴博さんとのキスは忘れられない想い出となった私は、無事新しい事務所と専属契約を結び、今までとあまり変わらない内容の仕事を続けていたが、決定的に違っていたことが、ひとつだけあった。
それは、毎月きちんと出るお給料制というものだった。