「泉?泉から積極的な言葉が聞けるなんて、珍しい。でも仁さんが真剣に怒ってくれて、何か益々好きになっちゃった」
カレン。仁さんのこと、本当に好きなんだね。
「あっ、そうだ。これ……」
カレンが私物のバッグの中から封筒のようなものを出し、私に差し出した。
「これなんだけど」
カレンが私に? 何だろう?
「見てもいいの?」
するとカレンが封筒の中から一枚の紙を取り出し、私に内容が見えるよう広げてくれたので受け取ると、そこには大手プロダクション主催のオーディションの案内が書いてあった。
「カレン、このオーディション受けるの?」
いみじくも不安に駆られながら聞いている自分の器の小ささに、改めて嫌悪感を覚える。
「それがさぁ。この日はちょうどもうひとつのオーディションとバッティングしちゃってるのよ。私としては両方受けたいところなんだけど、時間的に場所が離れてるから無理なの」
「そうなんだ。残念だね。もうひとつの方もモデルのオーディション?」
何となく内容が気になって、カレンに尋ねてみた。
「受けようと思ってるのは、タレントのオーディションなんだ」
タレント……。
カレンは女優になりたいって、確か前に聞いたことがあった。だからモデルのオーディションより、そっちを選んだのも納得出来る。
「それでさ。せっかくだから泉、オーディション受けてみたら?」
エッ……。
「わ、私が?」
突然のことに驚いてカレンに向かって大きな声をあげてしまい、慌てて口を押さえた。
「うん。だってこれから履歴書出してもまだ間に合うし、せっかくのオーディションなのに、ボツにしちゃうのも何だかもったいなくて。もし泉がこの日フリーだったら、受けてみたらどうかなと思って」
「……」
いきなり言われても何も勉強してないし、面接なんてどうしたらいいかもわからないのに。
「泉。いつまでも専属モデルになれないまま、年取って終わりたくないでしょう?チャレンジしていかなきゃ始まらないんだから」
カレン。
「それじゃ私、今日はもうあがりだからお先に」
「お疲れ様。あっ、カレンこれ」
オーディションの詳細を書いた紙と封筒を返し忘れてしまい、慌てて立ち上がるとカレンに指を指され制止されてしまった。
「泉。ちゃんと履歴書送りなさいよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ、カレン」
「泉ちゃん、こっち来て出番だから」
「あっ、はい」
結局、カレンに押しつけられた封筒を無造作に私物のバッグに押し込み、ひとまず撮影に臨んだが、頭の中はオーディションの履歴書のことと面接のことでいっぱいで、次の撮影を待つ間、着替えてすぐまた先ほどカレンから預かった封筒を出して、何度も応募要項を読み返していた。
「あれっ? 泉ちゃんも、そのオーディション受けるの?」
不意に背後から声を掛けられ、隠す暇もなく同じく撮影待ちのモデルの子にオーディションの用紙を覗き込まれてしまった。