今のモデルクラブの事務所での扱いは、所属はしているけれど専属ではないので、ここの収入だけではとてもじゃないが生活していかれない。
そのため、他の登録制のモデルクラブや単発のモデルのバイトなど、お声が掛かればなるべく仕事を入れ、地道ながらも顔と名前を覚えてもらおうと、いろいろなオーディションも受けていた。
そんな今日は、事務所の仕事。事務所の仕事はやっぱり嬉しい。何故ならば、貴博さんに会えるかもしれないから。
貴博さんは仁さんと共に、同じモデルクラブの事務所に登録している。私と同じで所属はしているけれど専属ではないのは、貴博さんも仁さんも本業は学生だから。
私自身の本業はと聞かれると、とても恥ずかしいがこれが現実。這い上がって、頂点を極めたものだけが脚光を浴びる。
いつか私も眩しいほどのスポットライトを浴びる日を、夢見て……。
メイクをしてもらい、スタンバイしながら撮影の邪魔にならないよう待機場所のベンチに座っていると、私の姿を見つけたらしい撮影を終えたばかりのカレンが、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「泉。この前は、ゴメンね」
「えっ? 何が?」
カレンが珍しく、しおらしい声で私の顔色を窺っている。どういう風の吹き回しだろう。いつもの無敵とも言える、オーラが出ていない。
「この前、飲みに行った時さ……。仁さんと二人の世界に入ろうとして、泉と貴博さんに何か嫌な思いさせちゃってゴメンね」
「カレン……」
いったい、どうしたんだろう。いつものカレンだったらというか、カレンがそんなこと言い出すなんて。
「あの日さ。泉と貴博さんが帰ったあと、仁さんに怒られちゃって……。もう少し周りに気配り出来ないと、結局自分が損するよって」
仁さんが、そんなことを。
「カレン?」
「ホント、ゴメンね。これから気をつけるから」
「ううん。気にしてないから大丈夫だよ。また一緒に飲みに行きたいね」
あっ……。
つい心の中にしまっておいたはずの本音を、カレンに口走っていた。