公認会計士。
監査及び会計の専門家として独立した立場において、財務書類、その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動や投資者及び債権者の保護等を図り、国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする。
俺の天職になり得る職業なのか?
困難を極めるが故に、手に入った時の達成感は計り知れない。人間というものはそういう性だと新井さんは言った。
まだ始まったばかりで何をどうしたらいいのかすら皆無だが、資格を取得するということに、何か惹かれるものがあった。それも強い力で……。
新井さんと別れ部屋に戻る途中、ふと暗闇の外を窓から夜空を見上げていた俺に、急峻な坂道の先に、一筋の光がぼんやりと行く手を照らし始めていた。

「どうだったかね?君の将来の職業として、また惰性で生き抜くのに、このお節介な夢先案内人の提案は」
教授はわざと煽るような素振りと言い方で、俺を試しているかのようだ。
「はい。とても興味深いものでしたし、凄く有意義な二日間でした」
「ほぉ……。それじゃあ、すんなり受け入れられたと?」
半信半疑なのか、教授は薄ら笑みを浮かべている。
「先輩からアドバイスを頂けたこともあったのですが、合宿から帰ってからもう一度、より詳しくリサーチをしてみたいと思っています」
「そうか。興味を持って貰えただけでも役に立てたと言えよう。で?卒論のテーマは?」
抜かりなく、肝心な部分も忘れていないところは流石だな。
「はい。卒論のテーマは、企業の経常利益と人件費との関係についてです」
「早速、将来的な展望を踏まえて、身近に感じられるような題材を選んだあたりは、感性の豊かさをやはり君に感じるが、敢えて聞かせて貰おうか? 理由を」
必ず、突かれるところだと思っていた。
「これからは、日々時間を無駄に出来ないと思っていることと、卒論のテーマに掲げることで、より探求心が自分にも生まれてくると思うからです」
「Perfect, Exellent 非常に良い受け答えだ。ただ……」
教授?
「日々時間を無駄に出来ないと君は言ったが、そこはちょっと違う。時は金なりという言葉を知っているな」
「はい」
「確かに時は金なり。同じ時間、同じ日は二度と訪れない。しかしだ。決して時を急いではいけない。過ぎゆく時間をまるでストップウォッチのように追い立てられ、焦ってみたところで何も良い成果は得られない。もちろん、無駄に時間を過ごせと言っているのではなく、過ぎゆく時間をいかに自分にとって有意義な時として過ごすか。時を急いでは見落として、やり残してしまうことも多々あるかもしれない。時間というものは有効に活用するのも、無効にしてしまうのも自分次第というもの。だが、問題はその中身であって、早さが利得というものではない。事柄によっては、時が解決してくれるということもある。先ほども言ったが、同じ時は二度と訪れない。しかしそのことを重んじて時を急いだところで、より良い結果は必ずしも生まれない。時は使い方次第の表裏一体のものだということを覚えておきなさい」
「……」
「それと……。若いうちは挫折と成功の繰り返しだ。何事も挫折を繰り返し、また一つ成長出来る。多かれ少なかれ人間誰しも挫折を味わったことがあるはずだ。もし挫折を味合わったことのない人間が居たらお目に掛かってみたいものだ。己をさらけ出し、頼れるものには我を張らず、君が明かに後塵を挿していると思える人生の身近な良い手本に頼ることだ」
えっ? 我を張らずとは、いったい……。
俺が明かに後塵を挿していると思える人生の身近な良い手本とは、新井さんのことじゃないのか?
「教授。身近な良い手本というのは、新井さんの事じゃないのでしょうか?」
「ハハハッ……。それはどうかな。挫折を恐れて楽な道を選んで夢先案内人を落胆させないでくれよ?わかったなら、次の人呼んできて」
「教授……」