「お待たせしました」
あっ……。
この場の空気が、その人の声と姿によって絢爛な雰囲気に変わる。存在そのものすべてが、その煌びやかなオーラに包まれ、周りの豪奢な調度品ですら、その人の装飾と化してしまう。そんな存在感を持っている人を、未だかつて私は一人しか知らない。
「ミサさん……」
「あらっ。久しぶりね。見間違うほど変わっていたから、一瞬、誰かと思ったわよ」
ミサさんなりの、独特な言い回し。あの日。酷い態と侮辱的な言葉を発した私に対する、ミサさんらしい再会の仕方なのだろう。
「お忙しいところ、今日はありがとうございます。それでは、そろそろ始めさせて頂いてもよろしいでしょうか」
「はい。貴女もいいわよね?」
「は、はい」
ミサさんを前にすると、本当に緊張してしまう。身体がカチカチになっているのがわかるし、心臓がドキドキしている。唯一の救いは、対面ではないこと。並んで座っているので、直接視線を交わす事は殆どないから、それだけは良かった。
対談というのは、ミサさんとだったんだ。敢えて先にそれを告げなかったマネージャーをふと見ると、黙って頷いている。きっと前もって私に知らせてしまうと、前の撮影の仕事も手に付かなくなってしまうだろうと予測した上でのことだろう。流石、マネージャーだけあると思うが、それが得策だと悟られているということは、まだ私は不安定だと思われているようで少し複雑な思いもする。
モデルになったきっかけや休日の過ごし方など、今までに何度か聞かれたようなことを聞かれ、ミサさんにしたら、今まで何度応えてきただろうというような内容の質問が続いていたが、次の質問でそんな思いは吹き飛んでしまっていた。
「それでは、ミサさん。泉さん。お二方から、それぞれお互いに聞いてみたいことなどございましたら、お願いしたいのですが……。では、まずミサさんから泉さんに対して、何かございますか?」
ミサさんから私に聞いてみたいことなんて、ないような気がするのに……。
「そうね……。貴女が目指しているものって、何かしら?」
「えっ?」
「あぁ、これじゃ、漠然とし過ぎているわね。貴女がこの世界に入って頂点に達したと思えるようなことは、どんなこと?」
頂点に達したと思えるようなこと?
「私は、まだまだ頂点に達するどころか、それ以前の問題です。皆さんに一日でも早く名前を覚えて貰えるよう、頑張っている最中です」