新そよ風に乗って ① 〜夢先案内人〜


心もこもっていないって言われても……。
「マネージャーさん。率直に申し上げて、このままじゃ来月デビューどころか、あと二年は無理ですね」
「そうですか……」
そうですかって、何でマネージャーは反論しないの? そこを何とかお願いしますとか、どうして言ってくれないの?
「何故ですか? 音程は外れてないと思います。何がいけないんですか?」
音程には自信があった。それなのに何故、駄目なんだろう。あと二年なんて……そんな先だなんて」
「確かに、音程は外れていないかもしれない。だけど、君の声が心に響くものがないんだよ。ただ上手く歌えればいいと思っている。それじゃ、観衆に耳を傾けては貰えない。何故なら、そのぐらいの歌い手など、幾らでも居るからだ。このCDが売れない時代にあって、人の耳に心に響き残る歌声を目指したいと事務所の社長に言われたが、今の君の歌声は、何処にでも居る少し歌の上手い人でしかない。それだけではとても太鼓判を押して売り出せるほど、私も自信はないよ。もう少しよく考えて、それでもやはり歌いたいと思えるようになったまた来なさい。嫌々レッスンに来られても、かえって迷惑なだけだから」
「申し訳ございません。泉とよく話しまして、それでまた……」
マネージャーに絆されるようにして、レッスン部屋を出て無言のまま車に乗った。
「泉ちゃん。厳しいと思うかもしれないが、みんな真剣なんだよ。君を売りだそうとするために頑張ってくれているんだ。モデルをしながら、歌手としてもメジャーになる。二足の草鞋を履くことは難しいが、それを泉ちゃんには出来ると見込まれての今回のメジャー・デビューに向けてのスケジュールなんだ。それをよく理解して欲しい」
「はい……」
マネージャーの力説に返事はしたものの、もう辞めたい気持ちでいっぱいだった。