意図的に目も合わさず挨拶だけして、マネージャーの方を見る。
「おはよう」
そんな私にミサさんは、何も言わずに隣の鏡の前に静かに座った気配を感じた。
「マネージャー。今日の仕事、キャンセル出来ませんか?」
「泉ちゃん? 何、言ってるんだ」
驚いた表情で、マネージャーが駆け寄ってきた。
「嫌なんです、私。ミサさんと仕事するのは」
「泉ちゃん。何てこと言うんだ。ミサさんに謝りなさい」
「嫌です」
「泉ちゃん!」
何で、ミサさんに謝らなきゃいけないのよ。貴博さんを独り占めして……。
「マネージャーさん。謝ってもらう必要はないわ」
「ミサさん。申し訳ございません。泉がとんだ失礼なことを」
「失礼なことじゃないわよ。本当のことなんだから、仕方ないじゃない。変に気を遣う方が失礼だと思って。ミサさん。さぞ、優越感に浸ってるんでしょうね。今日も来るのが楽しみだったんじゃないですか? 私の顔を見るのが。貴博さんは、今も自分のものとでも言いたいのでしょうね。貴博さんも、ミサさんと一緒になって影で笑っているんでしょう?」
遙かに先輩であるミサさんに向かって酷い物言いだったが、もう何もかもどうでもよくなってしまったのは、すべてミサさんのせいに思えて怒りに任せて思いを吐き出していた。
「仕事に私情を挟まないで頂戴。メイクさん。お願い」
私のぶつけた怒りなど何事もなかったかのようにかわし、メイクさんを手招きしたミサさんに更に苛立ちを覚えながら、メイクさんには当たれないので大人しく椅子に座り、ミサさんと目を合わせないようにしてメイクと着替えが終わった後、スタジオに向かった。これから三日間もミサさんと一緒に仕事をしなければならないなんて、耐えられない。遅くまで続いた撮影を終え、やっと帰れると思ったが、真っ直ぐ家に帰る気分にはなれなかった。
「ねぇ。飲みに行かない?」
「えっ? これから? ごめん。今日は無理。これから彼氏が家に来るから、急いで帰らないと。また明日。お疲れ様」
「お疲れ様……」
彼氏が家に来るから、急いで帰らないと……か。羨ましい気持ちと同時に、貴博さんが部屋に来た日のことを思い出し、それを打ち消すように周りに居るスタッフの人達に声を掛けた。
「これから、飲みに行きません?」


