新そよ風に乗って ① 〜夢先案内人〜


圧倒的存在感という言葉は、この人のためにあるのではないかと思えてしまうほど、文言の端々にまで一本筋が通っていて、語彙の一つ、一つが背中に重くのし掛かっていった。百聞は一見にしかず。その目で、その肌で感じてきたことは、何物にも代え難い説得力がある。先ほど挙手した人数は確かに13人であったが、今、上がっている手は20人から。提案者である会長を除く、すべての役員が挙手をした。
「私を含め、悔恨の情に駆られる者も多いだろう。だが、過ぎてしまったことを悔やんだところで始まらず、一銭の利益ももたらさない。この先を見据えた改革を、再建に尽力してもらいたい。以上だ。では、本題に入ろうか。社長」
「はい。では、総務と人事の件から。人件費の問題についてと業績対応に準じた賃金とベースアップについて、総務部長から……」
会長が出席することを、社長は知っていたのだろうか。それからすると、先ほどの落ち着き払った態度を保っていられたことも窺い知れる。会長の出席により、役員会の進行はスムーズに滞りなく進んでいるが、この先もずっとこの円満な状態が続くとは到底思えない。副社長は次の一手に出てくるはずだが、株主総会までは恐らく静観しているだろう。役員解任の手段に会長と社長側が出た場合、株主総会で承認されてしまえば副社長は副社長どころか、役員の立場も追われることになる。その取り巻きについても然りだろう。だとすれば、株主総会までが勝負だ。決算後は子会社の独立採算制分割を軌道にのせ、四半期決算に持ち込む。1日が24時間以上欲しいとは思わないが、それに近い願望は日々増していった。しかし、それは公認会計士として冥利に尽きる、充実した日々を送れている確固たる自負も同時にあった。