「可決の間違いだろう?」
「お言葉ですが、会長。賛成の挙手をした役員は13人で、役員協定にございます出席者の三分の二を超えておりません」
「14人だ。私を含めてな」
「……」
会長のひと言で、副社長の表情がみるみるうちに鬼の形相と化していったが、会長はそんな副社長の横を素通りして社長の隣に座り、着席している役員一同を見渡した。
「社長。ひと言、いいかね?」
「はい」
顔を見合わせた二人の立場は、会長と社長という同じ代表権を持ったトップだけあって威厳と存在感に圧倒されそうで、俺を含め、そこに会する全員が自然と背筋を正したように見えた。
「久しぶりに役員会に出席させてもらうが、日本は平和な国だと改めて痛切に感じるよ。海外の空港では、電光掲示板すら発着直前まで消灯されている空港すらある。航空会社にしても然り。パイロットや客室乗務員に制服以外は貸与ではなく、自前のフライトバッグを使用している。燃料経費を節約するために機内食のグレードは下げずに食器の軽量化を図ってみたり、プラスチックの使い捨てのナイフとフォークを使うなど試行錯誤を重ねながら可能なことはすべて実行しようとしている。会社の存続が危ぶまれている時に、湯水のように金を使う企業など有るはずもない。我が社の再建を図ろうと切磋琢磨することに、年功序列だの、役職だの、余分な考えを起こして会社を陥れようとしている役員は誰かね?会社にプラスとなるのなら、どんな社員の言葉にも耳を傾けるのが役員たるものの使命。業績悪化を招いた一端の責任は、ここに居る役員全員にもある。目先の自分の私利私欲だけを考え、有望な新しい芽を摘もうとする老害は誰かね? 一平社員が役員会に出席することがそんなに嫌なのは、私達が出来なかったことをやってしまわれる屈辱に耐えられないプライドが許さないだけだろう。まさに愚の骨頂だ。今の議案に挙手をしなかった役員が誰なのかを知りたい。そんな会社の再建に足を引っ張るような者には、役員を降りて頂く。もう一度、この議案に賛成の役員は挙手を」


