「貴博さんは、私の何を見ていたんですか!」
「……」
私は、貴博さんの何を見ていたのだろう。貴博さんが公認会計士になる夢を実現させ、社会に出て一線で働いている姿を垣間見てきた。けれど貴博さんの心は、一度として見せて貰ったことはなかった。貴博さんが今、何を考え、何を思っているのかさえわからない。ただ、私との別れを告げているのだけは、虚しいが確信出来ていた。虚しく、哀しい確信。貴博さんの瞳に、奇態を晒している私が映っている。それでも貴博さんは、視線を逸らそうとしない。何故?ここまで卑下されているのに、どうして何も言わないの?
「どれだけ私が、貴博さんからの連絡を待っていたか。思わせぶりな態度を取られて、どれだけ貴博さんの気持ちがわからなくて不安になっていたかなんて、女に事欠かないモテる貴博さんにはわからないでしょうね。貴博さんに、私の気持ちなんて……」
制御を失った心と気持ちが、支離滅裂な言動に表れている。それでも言葉を続けていないと崩れてしまいそうで、怖くて黙っていられない。
「結局、貴博さんは私を優しく抱きしめながら、その肩越しにまだミサさんとの未来を見ていたんですね。私は……私は、貴博さんと同じ未来を見ているつもりだったのに」


