「高橋君」
「はい」
ドアを開けようとした俺を、社長が呼び止めた。
「経理部長には、私から話しておく。何も心配しなくていい」
社長。
「ありがとうございます」
「それから……」
何だろう? ドアの方に歩み寄ってきた社長の顔は、少し険しかった。
「三月末まで少し風当たりが厳しいかもしれないが、堪えてくれ」
「はい」
「それじゃ」
「失礼します」
俺の肩を叩いた社長はそのまま奥のドアに向かって歩いて行くと、そのままドアを開けて別室へと入っていってしまった。
三月末まで少し風当たりが厳しい……か。想像出来ることだが、三月末までと区切った社長が意図していることは何だろうか。社長室を出てエレベーターを待ちながら少し考えていたが、それよりも臨時役員会で配る資料の作成内容が気になっていた。先ほどの社長に渡した枠組みだけでは、到底納得しない役員も多いはず。もう少し掘り下げて表記しよう。詳細を書いてもすべてを読むことは期待出来ない。急いで資料を作りたいところだが、日常業務をこなしながらの作成はやはり難しく、勤務時間が終わった後、落ち着いてから取り掛かり、その日のうちに仕上げて役員会の開催を待った。そして社長の招集により27日に臨時役員会が開かれ、早急な改革と実行が必要だということを社長の助言もあって役員の過半数の承認を得ることが出来た、子会社を独立採算制と株式分離について年が明けた一月十日に社長からマスコミに発表されることになった。手続き等の関係で、実施は来年四月から。来年から、いよいよ会社再建の年となる。そして、俺には年内にもう一つ……。御用納めの28日、彼女にメールを打っていた。