休日の会社は、まるで違う部屋に入ってしまったんじゃないかと錯覚するぐらい静かで、自分の動作の音しか聞こえない。この広い部屋に一人で居ることは別に怖さも寂しさも感じない。電話などが鳴らない分、仕事も捗る。しかし、海外はまた別としても、日本の支社のそれぞれの赤字を東京支社で賄うというこの自転車操業的な経営を抜本的に変えなければ先には進めそうにないな。やはり赤字路線廃止か、便数を減らすかしないと……。電卓で弾きだされた数字を見て愕然として、思わず持っていたペンをファイルの上に放り出した。このままだと、七年後には会社は破綻する。両手で頭を抱えながら、気持ちを落ち着けようと試みる。斜陽の会社に入社したことに、後悔はしていない。だが、これほどまでだとは予想外だった。しかし早急な手立てを打ち、立て直してこそ与えられた使命。今まで放置していた上層部や高田会計士のことをとやかく言うつもりもなく、言える立場にもない。経営が悪化し始めたその頃には、まだ俺は入社していなかったのだから。ケースバイケースで、想定範囲を変えて何度も電卓を叩いてはみたものの、やはり答えは一つだった。月曜日に、経理部長に話そう。否、社長に直談判? 経理部長でワンクッション置くと、それだけ時間が掛かってしまう。社長に話した事後報告として、経理部長に報告しよう。反感を買うと共に……。ん?人気のない静けさから、デスクの上に置いていた携帯の振動し始めた音が事務所内に響く。休日出勤ではあってもIDカードはスリットさせてていないので、仁と表示された携帯の画面を見て電話に出た。
「もしもし」
「貴博。今、何処だ?」
恐らく、仁は仕事なのだろう。後で誰かの話し声が聞こえている。
「今、会社」
「仕事?精が出るな」
「嫌味か?追いつかないだけだ。何?仕事中だろう?」
仁の仕事は、土、日は関係ないので、当然、今日も仕事だろう。
「あぁ。今、やっと昼休憩」
「大変だな」
もう16時を回っているのに、今、昼休憩なのか。身体壊さなければいいが……。
「そんなことより、貴博。泉ちゃんのことだけど」
仁の声で、その先の展開が想像出来ていた。


