「はい」
あっ、また貴博さんが返事しちゃった。
「あっ、あの……。ちょっと待ってて下さい」
急いで立ち上がって、寝室に置いてあった貴博さんへのクリスマス・プレゼントを取りに行き戻ってくると、何故か貴博さんがコートを着ていた。
「貴博さん?」
「ごちそうさま。とても美味しかったし、楽しかった。ありがとう」
嘘でしょう? もう帰ってしまうの?
「貴博さん。まだ居て下さい。明日は土曜日でお休みなんですし」
「あぁ、でももうすぐ終電がなくなるし、それに明日は仕事なんだ」
エッ……。
「仕事って、土曜日なのに」
いけない!貴博さんの仕事の話に首を突っ込んでしまった。なるべく仕事の話には触れないよう心掛けていた。貴博さんの仕事は、仕事で一緒になるスタッフの人との何気ない会話でわかったのだが、公認会計士の仕事は守秘義務も多く、それと同時に細かいお金の計算などもあって大変らしい。それを知ってから、なるべく貴博さんの仕事の話には触れないようにしていたのに……。それでも貴博さんは、変わらず微笑みながら私の頭を撫でてくれた。「悪いな。貧乏暇無しで能力もないから、休日出勤しないと追いつかないんだ」
きっと家に持って帰れない、会社から持ち出せない資料とかもあるのかもしれない。そう言えば月末の忙しい時期で、しかも年末で……。それなのに貴博さんは今日、来てくれた。それだけで、もう十分だ。これ以上、求めてはいけない、負担になってしまうもの。
「あの、貴博さん。これ……」
「俺に?」
恥ずかしさから黙って頷いたが、先ほどの貴博さんのプレゼントに比べたらとても及ばないもの。貴博さんがリボンを解き、形といい、見た目で中身が何かがわかるそれを開けて、中からネクタイを取りだした。
「好みじゃなかったら、ごめんなさい」
「いや、好きなカラーと柄だよ」
「そう言って貰えて、良かった……」
ずっと悩みながら、カラーと柄を選んでいた。貴博さんのように何でも着こなせる人ならば、どんなネクタイでも似合うだろうということはわかっていたが、それでもやはりスーツの色やデザインによってするネクタイなどは決まってくる。その一本に加えて貰えればと思うと、自然と真剣にあれこれ選んでしまっていた。


