困惑した表情を読み取ってくれたのか、貴博さんが優しく微笑みながらアドバイスしてくれたお陰で、トレーを持ったまま固まっていた私は、やっと行動に移すことが出来た。言われた通り電子レンジに5分ぐらい入れて取り出すと、鶏肉の美味しい匂いが鼻腔を刺激して、一気にお腹が空いてきた。
「あっ、こっちにくれるかな」
「はい」
貴博さんは、電子レンジから取り出したばかりの鶏肉をまな板の上にのせると、一口大に切り出した。熱くないのかな?貴博さんの包丁さばきを隣で見ていると、ふと貴博さんがこちらを見た。
「そんなに見ちゃ駄目。美味しさが減っちゃうから」
はい?見ちゃ駄目って、貴博さん……。その容姿でその言葉は、非常に反則なんですけど。
「あっ、大きめのボールを用意して」
「はい」
貴博さんはレモンを半分に切ると、用意したボールにしょう油とオリーブオイルを入れ、半分に切ったレモンをその中に搾った。やっぱり男の人だな。力があるから左手で一気にレモンをあんなに搾れちゃうなんて……。
「水菜入れてくれる」
「はい」
水菜を貴博さんがボールに入れた調味料の上から入れと、一口大に切った鶏肉を貴博さんがその上から入れて混ぜ始めた。
「悪いけど、テーブルの上にお皿用意してくれるかな。今度こそ、呑むお酒もね」
「プッ!はい、わかりました」
貴博さんに念を押されて、テーブルのセッティングとビールやワインをグラスの横に並べると、大皿に盛った先ほどの料理を持って貴博さんもこちらに来た。
「お待たせ。さあ、食べよう」
「はい……」
結局、何だか貴博さんに殆ど作ってもらっちゃった気がする。
「貴博ちゃん特製、チキンと水菜の簡単料理」
「美味しそう!」
「ビール? ワイン?」
エッ……。
「貴博さんと同じで」
夢のようだ。貴博さんと、クリスマス・イヴを一緒に過ごせるなんて。もうそれだけで満足しちゃっていて、アルコールの種類なんてどれでも美味しいと思えそうだ。
「じゃあ、チキンだから白ワインでいい?」
「はい」


