慌ててインターホン画面を見ると、一番逢いたかった人で、一番まだ来て欲しくなかった貴博さんの姿を映し出していた。
嘘……。
急いで受話器を取ったが、やはり貴博さんの声が聞こえてきた。
「高橋です」
貴博さん。
「い、今、開けます」
オートロックの施錠を解除すると、画面から貴博さんの姿が消えた。もうすぐ貴博さんが、部屋に来てしまう。どうしよう。まだ殆ど出来ていないのに……。頭の中が真っ白になりながら玄関の前でウロウロしていると、程なく玄関のインターホンが鳴ってドアの向こうに貴博さんの姿が覗き窓越しに見え、急いでドアを開けると濃紺のコートを着た貴博さんが立っていた。
「こんばんは」
今更ながら、モデルの仕事もしていた貴博さんだけあって、その着こなし方は流石というしかなく、感嘆の声を出してしまいそうだった。
「貴博さん。終わったら、連絡下さるって……」
「あぁ、これもイヴのプレゼントだから」
イヴのプレゼント?
「あの……」
「連絡すると見せかけて、フェイントで登場しちゃう。イヴはサプライズの連続でなきゃ、面白くないだろう?」
貴博さん……。どうして、いつもそうして私を驚かせてくれるの?自分が本当につまらない人間に思えてしまう。
「あっ、すみません。あがって下さい」
「お邪魔する」
貴博さんが、私の部屋に来るなんて……夢みたいだ。しかし、その夢心地気分も貴博さんがキッチンの方にチラッと目をやった時点で、現実に呼び戻されてしまった。まだ肝心のメインディッシュが出来ていない。
「いい匂いがするね。何、作ってたの?」
何と答えたらいいのだろう。でも今更、隠したところで始まらない。
「チキンを焼こうとして失敗しちゃって……」


