新そよ風に乗って ① 〜夢先案内人〜


「逢おうか」
「えっ……」
貴博さんの少し鼻に掛かった低い声が耳に押し当てた携帯から聞こえてきて、そのままスッと清流のように胸にまで響き渡った。
「仕事がタイトだから少し遅くなるかもしれないが、必ず君の家に行くから」
貴博さん……。
「Yes? or NO?」
「は、はい」
貴博さんの声が、温かく心に染み渡るようだ。ささくれ立った気持ちも、逢えなくて荒んでいた心も、貴博さんの声を聞くと全ての尖った剣先の氷塊となった負の要素を溶かしてくれる気がする。昔から変わらない決して自分に奢らず、その冷静沈着で思慮深く物静かな好青年。そのイメージはこれから先も変わらないだろう。それは、すでに貴博さん自身が確立された人間であるから。私ももっと成長して、すぐ物事に一喜一憂することのない確かな自分というものを見つけたい。
「多分、もの凄くお腹空いてると思うからよろしく」
エッ……。
よろしくって……貴博さん。それって、もしかして部屋に上がるってこと?
「あ、あの貴博さん。部屋に入るんですか?」
間抜けな問いをしてしまったことに酷く後悔しながら、携帯を持っていない右手で顔の反面を被った。
「あぁ……でも、嫌なら無理にとはいわないけど」
「嫌だなんて。そ、そんなことあるわけないじゃないですか」
あぁ、また。またしても恥ずかしいことを、思いっきり言ってしまってる。どうも貴博さんと話す時の私は、大胆になってしまったり思いも寄らない行動に出てしまったりする。舞い上がってる証拠なんだけれど……。
「それじゃ、24日。終わったら連絡する」
「はい」
でも貴博さんは私の言葉にも、まったく動じることもない。
「それじゃ……」
「あっ、貴博さん!」
「ん?」
あぁ、貴博さんのこの受け答えが大好きな私。このままずっと話していたい。話していたいと思っていても欲が出て、今度は逢いたくなる。逢いたくなっても逢えなかった寂しい日々が、貴博さんの声を聞いた途端、砕け散るように跡形もなく忘れ去られる都合の良い私の記憶……。
「電話……ありがとうございます。24日、楽しみにしています」
「フッ……。おやすみ」
「おやすみなさい」