「貴女の押しが足りないのかも?」
「押し……ですか?」
「そう。男ってね。社会人になると仕事一筋になっちゃうパターンと、稼げるようになったからっていう開放感から遊びまくるタイプとに分かれるのよね。彼氏の場合はどっちなのかわからないけど、手綱はしっかり握っておいた方がいいわよ。適度に連絡して、逢う約束を取り付けないと駄目」
逢う約束……。
でも、もう私からは誘えない。この前も誘って断られたのだから。
「この前、誘ってみても駄目だったんですよ」
「そうなの? それ偶々用事があったからじゃない?そんな一回ぐらいでめげてちゃ駄目よ」
「はぁ……。」
「泉ちゃん。出番」
アシスタントの人が呼びに来てくれたので、ちょうどメイクも出来上がったので立ち上がった。
「頑張って!仕事も恋も全力出さなきゃ、後悔するわよ」
「はい。行ってきます」
カメラの前で注文通りのポーズを決めながら、メイクさんが出る直前に言ってくれた言葉を噛みしめていた。仕事も恋も全力出さなきゃ、後悔する。その通りだ。貴博さんにもう一度、連絡してみよう。今度はメールで……。メールなら返事もくれるだろうと思い、その夜、貴博さんにメールを打とうと文面を考えながら打っている途中でメールの着信音が鳴って、驚いてメール画面を開くと貴博さんからだった。
—こんばんは。時間のある時に連絡下さい。 貴博—
慌ててアドレス帳画面を開いて貴博さんにドキドキしながら電話をすると、コール音が4回、5回と鳴っても貴博さんが出る事はなかった。何で?間違えて掛けちゃった? 今掛けた番号を確認すると、間違いなく貴博さんの番号……。急いで届いたメールをもう一度確認すると、間違いなく貴博さんからのメールで、時間も3分前に打たれたものだった。何故、貴博さんは電話に出てくれないの?不可解に思いながら、再度、貴博さんに電話を掛けようとして、一瞬だけ携帯が震えた気がした。


