新そよ風に乗って ① 〜夢先案内人〜


「明日は申し訳ないが、ちょっと無理だ」
「いや、家には居るが、やる事があって出掛けられないんだ」
「申し訳ない。また連絡する」
別に気にしていないと言ってくれた貴博さんだったけれど、勇気を出して誘ったデートの誘いは、あっさり断られてしまった。「家には居るが、やる事があって出掛けられないんだ」って何?貴博さん……。不安材料ばかりで、日増しに私のイライラも募る。信じていないわけではないけれど、何か今の状態は嫌だ。私ばかりが貴博さんを追いかけている感じで、肝心の貴博さんの心も気持ちも何処にあるのかわからない。
「女は、確証が欲しいのよね」
仕事でお世話になっているメイクさんが、核心を突く言葉をメイクをしながら発した。
「最近、泉ちゃん。元気ないからすぐわかったわ。彼氏と上手くいってないんでしょう?」
いつも肌の状態やヘアを担当してくれているだけあって、少しの変化も見逃さないのは仕事柄だろう。そんなメイクさんには、貴博さんという固有名詞は出さないにしても、それとなく彼氏の存在を仄めかしてはいる。だけど……。上手くいってないとかそれ以前に、何も進展がないのだから話にならない。
「そうじゃないんですよ。全然、反応がないというか、進展もないんです」
「えっ?そうなの?付き合ってどれぐらい?」
貴博さんと私は、本当に付き合っているのだろうか?勝手に私が思い込んでいるだけで、貴博さんは私の事は単なる友達としか思っていないとか……。ううん。だけど手を繋いでくれるのだから、友達じゃない。自分の良いように解釈してしまうが、そう否定と肯定をしながら返事をせずに居ると、業を煮やしたメイクさんが私の顔を無理矢理上げて鏡越しではなく、真横から顔を覗き込んだ。