彼女は、距離を詰めすぎると離れていく。

押せば引く。

掴めない、消えてしまうかもしれない、そんな感覚がするのだ。



相手の目を覗き込み常に顔色を伺い、弱みを握られまいと表情を消す。

そして、他人に決して小さな背中を見せなかった。


それはきっと、危害を与えられないようにこちらをずっと警戒しているからなのだ。



だから。

ナタリーが少しずつ歩み寄ってくるのを待つ。

そう決めたのに相反して沸々と湧き上がる欲望を、抑え込む。


怖がらせないように。

我慢しろ。



隣に横たわる王子が毎夜のようにこんな葛藤を抱えていることもつゆ知らず眠るナターリアは、その白い肌にぼんやりと月の光を反射させていた。