ダリア様の発言で三日に一度、ピエール──少し、苦手な宮廷画家──のアトリエに二時間座らされることとなったナターリアだが、何度か顔を合わせるうちに彼を見直した。


お辞儀も初めてみるような、いわゆる高貴な人がするそれとは一癖違っていて不信感を強めたが、明るくて言葉がなくても伝わってくるお人よしが見えてきた。

正直者で誰にでも優しく表裏がない感じ.........だから皆に慕われているのだ。

ここでは、前は珍しかった類の人が多い。

みんな優しくて、その瞳に欲は(まみ)れていない。


訪れるといつも画布(カンヴァス)の前で石膏像を片目で見て何かを呟いている横に座り、何枚か彼の作品を眺める。


あらゆる色が画面全体に踊っている、“抽象画” という絵を見て、どこの風景で、どんな時間で、どの季節で、何を描いたのか。

正解はないからたくさん考えるといい、と渡された。